善玉菌の定着

生きた善玉菌を摂っても、腸内に定着しない

実は腸内に定着しづらい善玉菌

 ビフィズス菌や乳酸菌など、生きた善玉菌入りのヨーグルトを摂ると、腸内環境がよくなります。そのことはだれもが知っているかもしれませんが、今週は3日もヨーグルトを食べたので、もう食べなくてもいい、といったようなことを思っている人は少なくありません。

 しかし、これは間違いで、毎日300グラムくらい摂らなければならないのです。ビフィズス菌や乳酸菌など、生きた善玉菌が入ったヨーグルトを摂っても、これらの菌は腸内に定着しないからです。

 では、どうして定着しないのでしょうか?

 私たちの身体には免疫機能が備わっているため、細菌やウイルスなどが侵入すると排除しようとします。これはヨーグルトに含まれているビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌も例外ではありません。

 ところが排除されず、腸をダマして共存している菌もいます。腸内細菌がまさにそうで、私たちの身体に常在する免罪符(免疫寛容)が与えられているため、腸粘膜にくっついて定着できるのです。もしヨーグルトから摂った善玉菌が腸内で常在すれば菌交代症を起こしてしまい、腸内細菌が減少してバランスが崩れてしまいます。

 生きた善玉菌入りのヨーグルトを摂ると腸内環境がよくなるのは、腸内細菌の増殖を促進したり抑制したりする働きがあるため、結果的に元々腸内に棲んでいるビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が活性化されて増えるからです。

 人間の身体に棲むビフィズス菌や乳酸菌を摂ることはできないのか、と思う人もいるでしょう。これなら腸をダマすことができ、腸内に定着しそうです。

 結論からいうと、自分の腸内に棲んでいるビフィズス菌なら定着します。方法としては、腸内細菌の構成がもっとも健全な青年期のビフィズス菌を分離・培養させたものを保存しておき、老化とともに悪玉菌が増えてきたら摂るのが理想的です。自分の菌ですから定着しますし、もっとも自分の腸に合った菌なのでリスクもありません。

 実際、私はこの方法で増やした自分のビフィズス菌を凍結乾燥させたものをカプセルに入れ、時々飲むようにしています。

漢方薬の効き目をも左右する腸内細菌

 身体にやさしい薬ということで、漢方薬に注目している人は結構いるのではないでしょうか。実は、この漢方薬の効き目も、腸内細菌が高めてくれるのです。

 たとえば、高価な漢方薬として知られている朝鮮人参はサポニンが主成分ですが、サポニンを分解する酵素、サポニナーゼがなければ効き目は期待できません。

 ところが、人間はサポニナーゼという酵素を持っていないのです。では、なぜ朝鮮人参が効くのかというと、腸内細菌のなかに、この酵素を持っているものがいるからです。ただし、サポニナーゼを持っている腸内細菌がいない人もいます。このような人は、サポニナーゼを持つ菌と一緒に朝鮮人参を摂れば腸をダマすことができ、効果が期待できます。

 朝鮮人参に限らず漢方薬は、腸内細菌によって活性化されることで、初めて薬効成分が有効になるのです。このように漢方薬にとっても、腸内細菌が重要となってくるのです。腸内環境が整っている人ほど効き目が高くなる、といえます。

 『主治医が見つかる診療所』というテレビ番組に出演したとき、西諫早病院東洋医学研究センター長の田中保郎医師も出演していたのですが、「腸を治せば、ほとんどの病気が治ります」とおっしゃっていました。東洋医学の基本どおりに腸を触診し、腸の状態に合わせて漢方薬を処方するのが、この先生の治療方法です。

 田中先生の元には、1日80人くらいの患者さんが訪れるのですが、そのほとんどの人が、ほかの病院では治らなかった患者さんなのです。頭痛やめまい、肩こり、便秘、アトピー性皮膚炎、うつ病など、どんな病気でも、田中先生の診察は、まず腸を触診するところから始まります。

 漢方薬と腸内細菌の力を医療に役立てる試みは、最先端の医療機関でも、すでに始められています。慶應義塾大学病院ではさまざまな手術を受けた患者に、できるだけ早い時期に免疫能力の向上や消化管機能の改善を図る目的で漢方薬を飲ませ、普通食が摂れるよう指導しています。これは、普通食が摂れるようになると、早期退院が可能となるからです。普通食が摂れるということは、腸内環境がよくなったことの証明になるのです。

 漢方薬は腸内環境を整えた上で薬効成分が作用するため、身体の免疫機能を再生させる医療行為としても注目されているのです。

「小腸がん」って聞かないのは、どうして?

 大腸がんや大腸ポリーブ、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群など、人間の臓器のなかで一番病気の種類が多いのが大腸です。これらの病名を聞いたことがない人は、ほとんどいないと思います。

 ところが同じ腸でも、小腸の病気といえば十二指腸潰瘍を耳にするくらいで、ほかの病名を聞いたことがある人は、あまりいないでしょう。実際、人間の臓器のなかで一番病気になりにくいのが小腸なのです。

 今や日本人の男性の2人に1人、女性の3人に1人はなるがんにしても、小腸がんになった人を知っている人は、極めて少ないと思います。実際、小腸がんになる人はほとんどいません。一方、大腸がんといえば、2001年から毎年10万人以上が罹患しています。がんを部位別に見ても、男性で3位、女性で1位の死因となっており、近い将来、日本人の死因ワースト1になる、とさえいわれています。

 ところで、小腸の長さは6~7メートルで、大腸の4倍以上もあります。表面積もテニスコート1面分もあり、大腸の約2倍となっています。消化吸収の80%を担っているのも小腸です。その大きさや役割からすると、大腸よりも小腸のほうが病気になりやすいように思う人もいるでしょう。それなのに、どうして小腸のほうが病気になりにくいのでしょうか? 主な理由は4つあります。

 まず1つ目は、小腸の粘膜活性は非常に活発で、1~3日に1回は新しく生まれ変わるからです。このため、たとえば細胞ががん化しても、すぐにその細胞が死んではがれてしまうため、病気になりにくいのです。

 2つ目は、やはり、腸内細菌が少ないことや食べかすがすぐに大腸に送り込まれるため、腸内細菌がつくりだす有害物質との遭遇が低いからです。

 さらに、3つ目は免疫細胞の約50%が小腸にあるからです。このため、病原菌やウイルスなどが小腸を冒そうとしても、すぐにやっつけられてしまうのです。

 4つ目は、腸内細菌の多くが大腸に棲み、小腸にはほとんどいないからです。腸内細菌といえば大腸に棲む細菌、といっても過言ではありません。これは腸内細菌のほとんどが、酸素があると生きていけない偏性嫌気性菌だからです。そのため、酸素がある小腸にはほとんどおらず、多くは酸素のない大腸に棲んでいるのです。

 もちろん腸内細菌のバランスがよければ問題はないのですが、悪ければ悪玉菌が優勢となって有害物質をつくってしまい、腸内で腐敗が起きるのです。このため、大腸が病気になってしまうのです。

 「あらゆる病気の原因は大腸に棲む腸内細菌」ともいわれるように、大腸の病気だけでなく、ほかの病気にもならないよう、腸内細菌のバランスをよくする必要があります。そして、しっかり排便していれば、腸にダマされることはなく、あらゆる病気になる確率がグッと下がります。

via:SBクリエイティブOnline